前橋地方裁判所太田支部 事件番号不詳 判決
主文
被告人を懲役壱年及び罰金参千円に各処する。
但しこの裁判確定の日から参年間右懲役刑の執行を猶予し罰金を完納することができないときは金弍百円を壱日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
訴訟費用は全部(館林簡易裁判所の分共)被告人の負担とする。
本件に関し被告人に対して公職選挙法第二百五十二条第一項の規定を適用しない。
理由
一、罪となるべき事実
被告人は大正三年頃より肩書住居において自転車の修理販売業を営み、昭和八年頃からは村の村会議員を勤め現にその職に在るものであるが
第一、昭和二十七年八月二日施行の群馬県知事選挙に際し立候補した北野重雄に投票を得しめる目的を以て
(一)同年七月初頃邑楽郡佐貫村大字川俣四百五十二番地の自転車修繕業を営む右選挙人である藤野善次方を
(二)次に同月五日頃同郡伊奈良村大字板倉千七百一番地の同業を営む右選挙人である清水朝三方を
(三)同月五、六日頃同郡佐貫村大字大輪百二十一番地の右選挙人である鈴木庄吉方を
(四)同日頃同郡伊奈良村大字板倉千七百六十五番地の自転車修理販売業を営む右選挙人である鈴木徳重方を
(五)同日頃同村大字同千三百二十三番地の同業を営む右選挙人である〓見政男方を
(六)同日頃同郡海老瀬村大字山口四百六十四番地の同業を営む右選挙人である川村茂八郎方を
(七)同月八日頃同郡大箇野村大字飯野千八百六十五番地の同業を営む右選挙人である小林平一郎方を
(八)更に同月十二日頃同郡六郷村大字新宿二十番地の同業を営む右選挙人である小山新一郎方を
それぞれ戸別に訪問して、北野後援会なるものに加入を勧誘し暗に同候補に投票方を依頼し以つて戸別訪問をなし
第二、右第一の選挙運動をなしたことについて同年十一月七日館林簡易裁判所に公訴を提起されたので同月二十七日第一回、同年十二月四日第二回、同月十一日第三回の各公判が同庁法廷において開廷され、検察官として同庁の職務を填補した副検事一場恵二各立会の下に検察官側の立証として前記藤野善次以下九名の証人尋問が行われたのであるが、右尋問に当つて同検察官が被告人に不利益な供述を証人らに強いて陳述させたように誤解して同検察官に対し不快の念を抱くようになつたのと、前記第三回公判期日に偶々その二、三日前より風邪にかかり臥床していたのを押して出廷するため当日朝卵焼酎約二合位を飲んで午前の法廷に臨んだことにより一層感情を刺戟されていた折から、同日中食に外出した際ウイスキー一合位を飲んで約四十分位遅れて出廷したところ同検察官から注意を受けたが、やがて同日午後二時十分頃裁判官が入廷し開廷を宣した後、一場検察官より甲第四五号証として北野重雄の立候補届出日に関する選挙管理委員長よりの回答書及び同年七月五日水防演習が栗橋で実施された旨の邑楽水害予防組合管理者の証明書等を証拠として提出につき被告人側の意見を求めたのに対し「そんなものはどうでもいい」と放言した上、その頃とみに廻つて来た前記ウイスキーの醉に乗じて、同所が法廷内であり且つ開廷中であつたのをわきまえず不法にも突如検察官席に迫り一場検察官に対して「お前は俺が選挙運動をしたということを無理に証人等に言わせようとしている。俺は絶対に選挙違反などはした覚えがない。みんなお前達が事件を作り上げたのだ。馬鹿野郎」等と怒号しながら同検察官の肩に掴みかかり、或はその右腕を掴んで検察官席より引張り出そうとするなどの暴行を加え、以て同検察官の職務の執行を妨害した
ものである。
二、証拠(省略)
三、適用法令
公職選挙法第二百三十九条第三号、第百三十八条第一項(罰金刑選択)第二百五十二条第三項
刑法第九十五条第一項、第四十五条前段、第四十八条第一項、第二十五条、第十八条、刑事訴訟法第百八十一条第一項
四、心神状態に関する主張の点
被告人及び各弁護人は前記第二の犯行当日被告人は相当量のウイスキーを飲んでいて泥醉状態にあり意識が判然としておらず正常の状態でなかつたのである旨主張するけれども、前記第二の事実について証拠として掲げた各証拠に徴すれば被告人が当時所謂心神喪失乃至耗弱の状況に陥つていたものとまでは到底認められないから右主張はこれを採用しない。(昭和二八年五月一六日前橋地方裁判所太田支部)